journal, columnmy essentials by Akihiro Kumagaya

#06 見えない物を、あらわす

まだ目に見えてはいない抽象的な物事を、形に定着させることはデザインの用法である。さらには形になる前の言葉の整理も、道標を立てる役割があります。

近年、物を分かりやすく伝えることのアベレージが高くなってきたことを実感している。
その中で、分かりやすさだけでは紐解けない、奥行きのある物に目が向きます。

形のない無形物は、先にネーミングやパッケージが目に入ります。彼ら、彼女らが、あらわすのは形だけでしょうか?
 

Anders Frederik Steenのワイン


Anders Frederik Steenの生産するワインのネーミングは、具体的なテイストよりシーンを想像させる。以前、飲んだワイン「Let’s go Disco」は、スイスイ飲んでいるうちに踊りたくなる選曲をかけてしまう多幸感に包まれる。

代々木上原のÀ côtéで紹介されたワイン「La Femme à qui?」には、ポストカードが同梱されていたそう。写真は、壁に書かれた「La Femme à qui?」という文字。裏には送り主のアンから、アンダースにあてたメッセージが書かれている。

”フランス 2020 夏 私たちはビーチに行く途中で、壁に「La Femme à qui?」(誰の女性?)と落書きが書かれているのを見て、質問したことを覚えていますか? それ以来、私たちはその文についてよく話しました。この言葉の意味は、誰の女で、誰に所有されているのか? 女性と男性の平等の欠如は、私たちの前で、世界中で毎日私たちに直面していること……(後略)”
(La Femme à qui? 意訳)

このエピソードの質問がワインのネーミングになっている。
エリック・ロメールなら映画1本分の会話劇がはじまるシーンを想像して、特別にポストカードを1枚いただきました。
 

AOIROのルームパフューム


雨上がりの大地の生命力に溢れた空気を「聞く」というコンセプトの香り「HAKUDO RAIN」。

ベルリンと東京を拠点に、香りのデザインを行うスタジオ AOIRO。香りを志津子さん、グラフィックをマニュエルさんが手がけたルームパフュームは、香りのコンセプトを体現するような、雨上がりの植物や地表にしたたる雫のようなボトル。


2017年、AOIROのベルリンスタジオへ遊びに行きました。香りの精製とデザインが親接しており、香りを形にあらわす純度が高い。

▼AOIRO
https://doinel.net/product/brand/aoiro
 

MITOSAYA薬草園蒸留所のオー・ド・ヴィー


千葉県夷隅郡大多喜町の元薬草園を蒸留所にしたMITOSAYA。自然物の小さな発見から、アートブックのようなオー・ド・ヴィー(蒸留酒)をつくる江口宏志さん。実験的なボタニカルのレシピから、最近は鹿革にも手を出している。

オー・ド・ヴィーの香りや味は、一年で何十種類も増えていく。中には形容し難い複雑な味も生まれる。
こだわりのボトルとラベルは毎年1人のアーティストと共に変わり、過去にはクサナギシンペイ、Nigel Peake、西本良太と続き、今年はJason Logan。

オー・ド・ヴィーとアートワークが直接的にリンクすることは多くはないけど、抽象的なアートワークは、お酒の楽しみを視覚的に上げてくれる。それだけで、十分だ。

Jason LoganはThe Toronto Ink Companyの創設者。江口さんからはテキスタイルのTEXTに教えてもらったと聞きました。そのTEXTに教えたのが、実は僕だった。
良いものを教え合うと、巡り巡って帰ってくる。
 

Austin Austinのアートワーク


イギリスのオーガニックブランド「Austin Austin」。自然食品専門店を営む父とアートに造詣の深い娘が作るプロダクトです。2018年にオンラインサイトから、香りを想像して個人輸入しました。

トライアルができない中、決め手になったのは、クリスチャン・ニュービーのアートワーク。近年のブランドがシンプルなタイポグラフィ一色となっていたパッケージと一転して、身体の描写はバスルームに置くと新鮮な風景に変わる。

同時期にdoinelの取り扱いがはじまり、偶然の縁がありました。

▼Austin Austin
https://doinel.net/product/brand/austin-austin
 

岬屋の羊羹粽


端午の節句に作られる粽(ちまき)。本葛を笹の葉とい草で巻いて、円錐形に包み込む。美味しく理にかなった工程と素材の包み。その中でも特に良い佇まい。

この羊羹粽の美しい包みを、紐解いて食べる儚さがあります。

味・香り・肌理など、視覚以外を嗜むものがあらわされた側を表とすると、裏には物をつくる背景のコンテクスト(文脈)やプロセスがある。

眼に見えない物の背景には、無数の選択肢から選び抜かれた過程が凝縮されています。粽のように何世代も洗練された地産の素材と製法が適合した物であっても、現代で継続するには相当な尽力が想像される。

ともすれば、Andersのワインのネーミングは、味とは大きな関係もない。その時の収穫されたブドウとワインの味と気分がネーミングに選ばれる感覚。

この軽快さにも共感できるのは、物を考えるときに言葉を創造の道具として使用しているから。普段は隣り合わないような物や言葉を近づけたとき、先例を越えたイメージをあらわすジャンプができる。

(おわり)

 


 

Photo: Takuroh Toyama

熊谷彰博
AK_DD 代表
2007年より、物の見方を探求し、独自の視点から文化的な媒介として、デザインとディレクションを手がける。さまざまな相談への着想と文脈の再構築から、デザイナー”など”のなど業が広がり続けている。

無印良品 池袋西武 企画展「STOCK展」企画・監修・会場構成、21_21 DESIGN SIGHT 企画展「雑貨展」コンセプトリサーチ、「柳本浩市展」キュレーター、オリンパス純正カメラバッグ「CBG-2」プロダクトデザイン。2021年、初の個展「OBJECTS」を開催。

編書に、『STOCK』(MUJI BOOKS、2017)がある。

http://alekole.jp/

 
my essentials by Akihiro Kumagaya
#01 物買ってくる  自分買ってくる

#02 おおらかな、器具
#03 素材と物、ブリコラージュ
#04 選ぶ、動機の発見
#05 凸凹な、ニュートラル
#06 見えない物を、あらわす

≫ journal topページ
https://doinel.net/journal

 


 
Text & Photo:Akihiro Kumagaya
Edit:Yuki Akase

update: 2022.06.28

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