journal, columnmy essential by Maki Nakano #04 受け継がれてきた古いもの

今回の最終話では、私が大切にしているもの、受け継がれてきた古いものたちについてのお話をしたいと思います。

 

Hans J. WegnerデザインのCH44

この夏、新居に引っ越しをしました。くつろげる1人掛けソファが欲しいと考えていた時、used品のCH44を見つけました。1965年に発表されたハンス J. ウェグナーのラウンジチェアです。他にも候補があり1つに絞りきれずにいましたが、実際に状態確認をしながら着座した時、これ以外、家にある様子が想像出来ないと思うほどしっくりきました。ゆったりした座と背で十分寛げるなぁという印象ながら見た目はとてもシンプル。アームを少し広くすることにより、後ろ脚との接合部の強度を高めているそうですが私にとってはかなり細いという印象。

届いてからは、自分が想像していた以上にこのラウンジチェアで過ごすことが多く驚いています。過去に所有したことのあるソファは腰を掛けるというよりも寝そべる事の方が圧倒的に多かったため、私の性格上、結局はすぐにベッドに移動してしまうのだろうな、と踏んでいたからです。光の当たる気持ちの良い時間、夜お風呂から上がったタイミング、疲れて自宅に戻った時など、ついついこの場に座っています。リラックス出来るからかもしれませんが、自分だけの場所が出来て嬉しいのだろうと思います。

オールドバカラのワイングラス

ナチュラルワインを好んで飲むようになってから自分の特別なグラスで飲みたいと思うようになりました。ある日友人に、マイワイングラスを手にするならどんなデザインのものが欲しい?と質問されたとき、オールドバカラのグラス!と即答。どんなデザイン?と聞かれて見せた候補はいずれも “やっぱりシンプルなものが好きなんだね“ と言われる程、極力シンプルなものたちでした。

その言葉に特別な意味はなかったでしょうが、後々その言葉を頭の中で繰り返すように。お花や植物モチーフのデザインにしよう!と思い至るまでは時間はかかりませんでした。あえて今回はシンプルではないモノに飛び込んでみたいと思ったからです。

ようやく決まったグラスは、京都にある“アンティーク加藤“で購入したオールドバカラのワイングラス。シリーズ名は現代も続く“ローハン“といい、ウネウネと蔓の模様が伸びるようなデザインです。現行品との違いは彫りの深さで、指でなぞるとその違いは明らかです。よくここまで深く彫っているのに割れないものだなと感心してしまいます。美しさ、上品さを兼ね添えながらロマンを感じられるグラスで、使用した時に感じる特別感が気持ちを高揚させてくれるのです。

今ではオールドバカラの美しさにすっかりハマってしまい、次はショットグラスくらいのサイズ感で金彩がいいなと、今までの好みになかったシンプルではないものを探っているから自分でも驚きです。

古い写真集のこと

チェコ出身の写真家、ヨゼフ・スデックは好きな写真家の1人です。木製の大判カメラを持ち、プラハの街並みや風景、大聖堂などを切り取っていくのですが、いずれも差し込む光が非常に美しく、静寂で詩的です。なんと表現すべきなのか迷いますが、差し込むというよりも柔らかく光が空間を包んでいるという感じ。その瞬間を捉えていく写真を見ていると吸い込まれて行くような感覚に陥ります。彼のアトリエで撮影される、結露した窓辺の写真にも惹かれます。調べて初めて知ったことですが、第二次世界大戦中、ナチスから撮影活動が制限されたために、アトリエ内での撮影がメインになっていったそう。それでもなお自分の好きな場所を見出し、窓辺で花や卵、パンなどを撮影していくのです。光をコントロールして映し出されていく写真はあまりに美しく、今もよく見返す写真です。何故こんなに見返すのかと問われると、精神安定的な意味合いなのかもしれません。

もう1一人、ポール・ストランドについて。昔、洋書専門店でアルバイトをしていた時のこと。たまにお店を覗いて下さり、必ずポール・ストランドの写真集を見せて欲しいと手に取られる外国のお客様がいました。カウンター越しに一緒にページをめくりながら色んなお話をしましたが、中でも印象的だったのは好きな映画のお話。小津安二郎を知っているかと聞かれ、もちろん知ってはいましたが当時はまだ観たことがなかったので何に惹かれているのか尋ねると、圧倒的に美しい構図が良くて好きだと回答され、ポール・ストランドの幾何学的な構図の捉え方と共通するんだと、該当写真を見ながら目をキラキラさせて話して下さいました。私は映画を観る時、使われている小道具やインテリアに目がいくタイプだったので、あぁ構図、なるほどその視点で写真家との共通項を探るのか、と新たに視点を知った時でもありました。それから数年経ち、もう1度見たいと思い返す機会があり古書の写真集を手にしました。斜めに入る影、幾何学的な形やパターン、装飾的な要素を排除したミニマリズム的な切り取り方は今見ても斬新に思います。両者の共通点は光なのかもしれませんが全く違う切り口の美しさで非常に惹かれます。

さて、4話を通し、私の偏愛についてお話させて頂きました。私自身、自分を客観視することが苦手、話すことも苦手。あなたってどんな人?という質問にはモジモジとしてしまいます。ですが、所有するものを見つめていくと改めて自分にもちゃんと芯があり、明確な好みがあり、意外と頑固者なのだなと自身を知る良い機会となりました。最後までお付き合い頂きありがとうございました。

 


 

中野 真季
大学卒業後インテリア会社にて8年勤務、ショップディスプレイ、コーディネート提案など幅広く活躍。2019年より、本格的にインテリアスタイリストとして独立。衣食住を中心としたライフスタイルについて、独自の感性を生かしたスタイリングを雑誌やWEB、広告など多数提案している。

Instagram : https://www.instagram.com/ikamtany/

my essentials by Maki Nakano
#01 ガラスの魅力
#02 なぜか惹かれる無彩色
#03 撮影の脇役たち
#04 受け継がれてきた古いもの

≫ journal topページ
https://doinel.net/journal



Text & Photo:Maki Nakano
Edit:Megumi Saito

update: 2024.02.09

mail magazine

Welcome to doinel online store !

doinel では、最新情報をお届けするメールマガジンを
不定期で配信しております。

ご登録希望のメールアドレスを入力のうえ
” Subscribe ” ボタンをクリックしてください。

doinel の最新情報をお届けしています。
ご登録を希望のメールアドレスを入力のうえ、
” Subscribe ” ボタンをクリックしてください。

Thank you for subscribing!

ご登録ありがとうございました。

Subscribe
doinel / ドワネル

mail magazine

doinel の最新情報をお届けしています。
ご登録を希望のメールアドレスを入力のうえ、
” Subscribe ” ボタンをクリックしてください。

doinel / ドワネル