journal, columnmy essentials by Akihiro Kumagaya

#04 選ぶ、動機の発見

物と情報が年月と比例して膨大に蓄積されていくなか、限られた時間に物を選ぶ力の大きさを感じている。

なぜ、多くの物の中から、これを選んだのか?動機や口実を見つける1つの方法として、作り手を後押しする選び方があります。

例えば、コンテンポラリーの機能のないオブジェクトは、既存の価値観では測れない過程の物も多い。比較する情報が少ないから、こちらが価値を発見したり、創造的な誤訳が起こる。

みんぱく(国立民族博物館)初代館長の梅棹忠夫が、『知的生産の技術』に記述したB6のカード・システムがあります。

1. 気づいたことをカードにメモする。
2. 1枚に1つの情報を記録する。
3. ときどき見直して、複数のカードから関係を再発見する。

物には情報や系譜があると、第1回のコラム「物かってくる 自分かってくる」で紹介しました。物も選ぶ中で、小さな気づきがあった物をストックしておくと、カード・システムのように、ときどき物の情報に関係した発見が見つかります。

物と情報が蓄積されていくなら、個人的なデータベースを築いて発見を楽しむのは、物との豊かな付き合い方だと考えています。

それに、同時代の活動する作家の良いのは、生きた説明(作る動機)を聞けて、選ぶための動機に作用しやすいところ。

今回は、背中を少し押すような物の選び方、動機の発見について。
 

Sphericon Roam


Sphericon(スフェリコン)は1969年にイギリスのColin Robertsが発見した回転体を半分にカットして、片方を90°回転させた等高重心立体。連続する曲面と重心が一定であることにより、スムーズに転がります。

Roamは複数の素材を試す中、転がることに適した樹脂を使用して製作。鹿児島「ash Design & Craft Fair 2021」の展示販売から気になっていたところ、お土産として1つ譲っていただき、東京の展示で買い足しました。

いくつかの種類があり、これはフォルムから予想のつかない転がり方がいい。表面の仕上げと精度の高さから、滑らかによく転がります。
 

SMALLEST BOOK HIMAA(平山昌尚) / 布団針のオブジェ 恩塚正二


THE TOKYO ART BOOK FAIR 2015にて、HIMAAさんが、その場で作り販売していた「SMALLEST BOOK」1st Edition 10。

アートブックやZINEのフェアの中で、最小の本。「見える人には、見える」笑いながら説明する姿に、こちらも笑ってしまった。誤字も含めて、ありあわせの材料から作った瞬発力が良く分かります。

造形作家 恩塚正二「布団針のオブジェ」は、一点一点の姿形や配色が異なる。普段は主張しない方がいい針頭が大きい。ただ不思議と空間に対して、存在が馴染む。

最小の本と大きな頭の針、取り合わせの妙があります。
 

Radio Tomoe Miyazaki

▲STOMACHACHE ミヤザキトモエ 個展「DAILY LIVES」の作品

日頃からラジオリスナーを公言し、イラストやアートワークの制作中に聴いていたラジオをモデルにした作品。

トモエさんとはラジオの会話も多く、制作中のルーティンやパーソナリティと連関したモティーフ。ペインティングと立体の作品を兼ねたハンドクラフトの揺らぎに、DIY精神も想像しました。

チューニングは、FM90.5+AM954。
 

イチンゲの店 瀧口健吾

▲アイヌの人形 ニポポ※も想像させる。
※アイヌ民族の母を持つ健吾さんは慎重に言葉を選び、アイヌのニポポとは呼べない。と話していた。

北海道阿寒湖のアイヌコタン、イチンゲの店 瀧口健吾の木を割った偶然の形を活かした人形。

郷土玩具の系譜から外れた素朴な造形は、父の彫刻家 瀧口政満が、埋れ木の形から制作した作品『共白髪』のオマージュ。

1つだけ置いてあった人形を「金具をつけてキーホルダーにしています」と聞いて、「このままの方が良いと思います」と、伝えて購入しました。

どうか木を活かして、そのままの制作を続けてほしい。
 

まる 阿部寛文

▲3 December 2020

阿部さんは、毎日まるを描いている。描く媒体の紙はその時々で変わり、古いドイツのペーパーフィルターの円に描かれた「まる」。

▲『NOT FAR』01の裏表紙は阿部さんのアートワーク

2020年より、T-HOUSE NEW BALANCEが発行するフリーマガジン『NOT FAR』のアートディレクションとデザインに参加しています。初号はベルリン在住の友人ティルマン(75W)をゲストエディター兼デザイナーに招いて、ロックダウン中の日常の記録の1人として、阿部さんをご紹介いただきました。

阿部さんはベルリン拠点ですが、今年は札幌・東京の個展を開催。まるの習作は持続しながらも変化がある。継続することの強さは、他の作品との関連性も見えてくる。

たくさんの中から、1つのまるに目が留まった。

▲上左:熊谷彰博「334D180」 / 上中:西本良太 多面体 / 上右:荒牧悠「ストゥラクチャ」ガラス玉を支える構造体

物の良さをまだ上手く言葉にはできていない。作家の実践は時間をかけて、確かめるために所有することがあります。

木工作家の西本良太さんが、木の塊を不規則に削り塗装したグレーの多面体。輪郭の白い線とグレーの面、どちらが主体かはフォーカスした箇所によって変わる。

2020年、私の個展では木の木口・板目・柾目を投影図法で構成した彫らない木目の版画を発表後、制作を継続しています。多面体から薄く見える木目が、版画の構成の参考になるか。と淡い期待を寄せたが、今のところは適ってはいない。

気ままに多面体を転がして、偶然の良い向きを探っています。

(つづく)

 


 

Photo: Takuroh Toyama

熊谷彰博
AK_DD 代表
2007年より、物の見方を探求し、独自の視点から文化的な媒介として、デザインとディレクションを手がける。さまざまな相談への着想と文脈の再構築から、デザイナー”など”のなど業が広がり続けている。

無印良品 池袋西武 企画展「STOCK展」企画・監修・会場構成、21_21 DESIGN SIGHT 企画展「雑貨展」コンセプトリサーチ、「柳本浩市展」キュレーター、オリンパス純正カメラバッグ「CBG-2」プロダクトデザイン。2021年、初の個展「OBJECTS」を開催。

編書に、『STOCK』(MUJI BOOKS、2017)がある。

http://alekole.jp/

 
my essentials by Akihiro Kumagaya
#01 物買ってくる  自分買ってくる

#02 おおらかな、器具
#03 素材と物、ブリコラージュ
#04 選ぶ、動機の発見
#05 凸凹な、ニュートラル
#06 見えない物を、あらわす

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Text & Photo:Akihiro Kumagaya
Edit:Yuki Akase

update: 2022.06.02

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