journal, columnmy essentials by Akihiro Kumagaya

#01 物買ってくる  自分買ってくる

はじめまして、デザイナー(など)の熊谷彰博です。

物の見方を360°から切り口を探して、誤用、転用、あの手この手と工夫をこらし。ときには対象の物が見えなくても、人が関連性を見つけるラインはどこか?

あらゆる視点と解釈により、物の周縁をスキップしながらデザインを探求しています。そのほかにも展覧会のディレクションや、近年は個人の作品も制作しています。

「ものは突然生まれてくることはありません。過去から続く文脈の中から環境や情勢をその時々のタイミングで加えて生まれてきます」

20代半ばに、尊敬する収集家から物の誕生と背景について聞きました。また、多くのデザイナーやアーティストが収集した物から創作のインスピレーションを得ている。最近の展覧会では、作品のレファレンスを明示することも増えていますね。

物を買うこと、特に選ぶ眼を養うことで物の系譜をつかむ。手始めの実践として、骨董市、荒物屋、ヴィンテージやセレクトが特徴的なショップ、国内外のホームセンターやスーパーマーケットなどに通いつめ、まずは文脈から切り離して、ただ良い物を自分の眼で探していきました。選び・集めることで、見聞が広がります。

直感的な収集が功を奏して、とるにたらない物を集めた展覧会、無印良品 池袋西武「STOCK展 − 気づきを、備える」(2015)、21_21 DESIGN SIGHT「雑貨展」(2016)、「柳本浩市展」(2017)と、物にまつわる3部作の展覧会に繋がります。言葉にはできないが、収集物を媒介すると見えてくる情報を扱いました。

今回は、その展覧会に関連・登場した物の一部をご紹介します。
 

大正時代の徳利


素朴かつ截然とした佇まいに惹かれて、骨董市で入手したもの。

「これは徳利の原形ではないか」ふつうを考え・作る達人が感心したことがあります。原形と聞くと誤解を招きそうですが、時代背景により標準化していった製品の形=原形だと推測しています。明治から大正にかけて、手工業も量産品が増えていく。その品々が各地に広がり、ある形が定番になる。

▲スタジオと蒐集品、徳利は写真右

過去から洗練されてきた現代の徳利も、時代を遡ると起点となった形に出会うことになります。骨董市では大正〜昭和にかけて、絵付けの有無に限らず、同じ徳利をよく見かけます。
 

Boda Nova ソルト&ペッパー


オーバルの同型フォルムに穴の数(1つと3つ)から、塩・胡椒を分ける端正な道具のふるまい。スウェーデンのBoda Nova “Oval Steel” は、カトラリーシリーズのため通常はステンレス製。こちらはグレーのプラスチック、手軽な質感も慎ましい。

以前doinelで開催された蚤の市の掘り出しもの。
 

岩田哲宏 建材の波板のような陶器


岩田さんが作陶するテーブルウェアのグレイッシュな白と異なり、陶器のオブジェクトはテラコッタの色合いが特徴的です。

この色、どこか見覚えありませんか? ホームセンターの入り口、資材置き場の向かい。砂埃をわずかにまとい、外に置かれた園芸の植木鉢。あの色。この陶器にも関東ローム層の赤土が使われているそうです。(展示のinformationより)

東京を拠点とした岩田さんの足元にあった、とるにたらない土。そして、形からは建材・資材と園芸用品の物理的に近い、二重の親和性があるかもしれません。個人的な解釈ですが、この繋がりに親近感を覚えます。
 

タミゼのホーローワイドリム皿


ファッションがヴィンテージの服をリサーチして、現代に合う服へデザインを調和させる。そう聞くと、物は単体ではなく連続した歴史の上にあると想像がつきやすい。

デザイナーに限らず、いい物を扱う店主やバイヤー、収集家など、有名・無名の膨大な物から選び抜く力に着目しています。

アンティーク・タミゼがオランダ製の古い皿をレファレンスにしたホーロー皿です。ワイドリムのゆとりと控えめなホワイトが、朝から晩まで様々な食材と相性が良い。

キューカンバーサンドはキュウリをビネガーに漬けて、たっぷりとバターをぬる。暖かい気候とマッチして美味しい。


ホーロー皿は0.4mmの薄さで軽い。さらに丈夫となれば、アウトドアの頼りに。
 

江戸初期の漆椀


ふっくらとした曲面と高台が、汁物や煮物を包み込む。古い木箱に雑然と重ねられた漆椀を手にしたとき、食卓のイメージが膨らむ。旧 白洲次郎・正子邸、武相荘の骨董市で購入した際、売り手から白洲正子旧蔵の品、江戸初期の漆椀と伺いました。

柔らかい形が食卓に活きるお椀なので、どこかと一緒に復刻・リファインする機会はないか? と温めています。
 

柳本浩市 ARCHIVIST


冒頭の収集家とは、全方位に何でも集めていた柳本浩市さんの言葉です。

生前、夜な夜な大勢とアルコールや会話の熱気を帯びて話し合ったとき、みんぱく(国立民族学博物館)から、人類文化の多様性と収集について熱心に述べていました。当時、漠然と関心を寄せながらも、まだ民族関連と現代との学を見い出せてはいなかった。

十数年経過して、自分の眼と足を使い物を収集する。デザインに限らず、民俗資料、クラフト、アートなど膨大な物を見ていく。あのとき、話をしていたのはこれだったのか……!と、物の系譜に気づく。長い時間をかけて、幾度も記憶を呼び起こされます。

▲柳本浩市展 Photo: Nacasa & Partner Inc.

2017年『柳本浩市展 “アーキヴィスト─柳本さんが残してくれたもの”』のキュレーションを担いました。この展覧会をまとめた記録集が4月4日に発刊されました。

柳本さんはコレクターではなく、収集は物の情報・文脈を知りたいから集めていました。物を買う・集める理由は数多くありますが、本を通じて、あなたの物との関わり方と重ね、置き換えて考えることができます。本には編集として参加しています。お見かけしましたら、どうぞ、お手にとってご覧ください。
 

“物買ってくる  自分買ってくる”


民藝運動提唱の一人でもある陶芸家・河井寛次郎の言葉です。

物を買い足す、蒐集の過程を選び抜くと、物から人が見えてくる。昨年、東京国立近代美術館の展覧会「民藝の100年」では、彼らの民藝蒐集が作品の制作に大きな影響を与えていた。つまり、そばに物があることは記憶や属性を外に出して、時間をかけて自分の物へと還元する役割がある。

先々の自分に影響しそうな物をそばに置く。自身が設定した基準の蒐集物が隣り合う。アイデンティティを外在し、さらには還元していく物の媒介性に興味があります。

物は歴史や文化の延長線上にある。過去を参照すれば、用の美の物も、よく分からない物も当然存在している。この間が面白い。軽やかに、たまには足を踏み外して自分買ってくる。物好きの幅を広げることで、新しい見方が芽生えると思えば、安心できます。

脈々と洗練されてきた確かな物は尊重しつつも、まだ自分でも分かっていない……けど、目が行く物を選ぶものさしを作って集めていく。言葉にすると零れ落ちてしまうようなものを、時間をかけて掬い上げる。物は奥ゆかしい。

(つづく)

 


 

Photo: Takuroh Toyama

熊谷彰博
AK_DD 代表
2007年より、物の見方を探求し、独自の視点から文化的な媒介として、デザインとディレクションを手がける。さまざまな相談への着想と文脈の再構築から、デザイナー”など”のなど業が広がり続けている。

無印良品 池袋西武 企画展「STOCK展」企画・監修・会場構成、21_21 DESIGN SIGHT 企画展「雑貨展」コンセプトリサーチ、「柳本浩市展」キュレーター、オリンパス純正カメラバッグ「CBG-2」プロダクトデザイン。2021年、初の個展「OBJECTS」を開催。

編書に、『STOCK』(MUJI BOOKS、2017)がある。

http://alekole.jp/

 
my essentials by Akihiro Kumagaya
#01 物買ってくる  自分買ってくる

#02 おおらかな、器具
#03 素材と物、ブリコラージュ

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Text & Photo:Akihiro Kumagaya
Edit:Yuki Akase

update: 2022.04.15

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