journal, columnmy essentials by Akihiro Kumagaya

#03 素材と物、ブリコラージュ

物をさわる瞬間、テクスチャーを知覚している。人の手は1ミクロン(1mmの1000分の1)以下の凹凸を感知すると言われています。

なにか選ぶとき視覚に限らず、触覚から判断することがある。その上、物を構成する素材そのものを持っておきたい。そして、素材を道具として、使うことがあります。
 

タオス・プエブロで手に入れたスマッジ


2020年1月1日、タオス・プエブロにいた。

アメリカのニューメキシコ州サンタフェから70マイル(112km)、この土地に1000年以上定住してきたネイティブ・アメリカンのプエブロ族の集落では、新年を迎える伝統的な儀式としてタートルダンスを踊る。

タオス・プエブロの一角で見つけたスマッジ。スマッジはセージなど香りの高い植物を乾燥して束ねた身を清める道具。火を点け燻した煙から、香りが立ち上り浄化される。

街中で見かけたスマッジは短い塊だったが、これは長く棒状、まるで素材の束。
 

無塗装のフラワーベースとプランター

▲左:プランター / 右:フラワーベース MIRTO

福井県の漆器メーカーMarutomi(丸富漆器)のプランターとフラワーベース。どちらも塗装前のプラスティック製で非売品。

フラワーベース MIRTOは、Ettore Sottsassが1997年にデザイン。プランターは、梅田正徳が2002年にデザイン。イタリアを中心として多国籍からなるデザイナー集団「メンフィス」として、共に活動していた。

本来はポストモダンを象徴する色彩豊かなカラーリングを塗装するため、テクスチャーは凹凸もなく滑らか。そのため、特徴的なフォルムにフォーカスできます。
 

BOROSIL VISION JUGとKINTO CAST ウォータージャグ

▲下:BOROSIL VISION JUG / 上:KINTO CAST ウォータージャグ

ジャグは上下、異なるメーカーの物を組み合わせています。KINTOのジャグが割れ、ガラスのフタが余ったので、代用のジャグを探しました。

BOROSILは直火対応の耐熱性、理化学メーカーの堅牢さが頼りになる。
 

UTRECHT/NOW IDeA 長い棒(2012)


UTRECHT/NOW IDeA 青山時代、テラスの展示小屋の備品として雑多に使われていた長い棒。全長2.03m。当時、表参道駅から担いで持ち帰った。

壁に立てかけてコートハンガーとして、また雨に濡れたコートは、水を気にせずに玄関へ移動できます。それに加えて、照明をかければ、フロアランプにもなる。

切れば材料として使える素材と道具の間に位置しており、打ち付けられていた木ねじは節とも解釈できる。生活に長い棒があると、工夫が捗ります。

とるにたらない長物は、ブリコラージュの勝手がいい。ブリコラージュとは、フランスの文化人類学者のクロード・レヴィ=ストロースが紹介した世界各地で発見された余り物を寄せ集めて、本来の用途とは関係なく作った道具。

この人類の工夫と知のあり方に、とても影響を受けています。
 

『長物のショートショート』展


「棒を3本、選んでください」素材と物の間を考える問いを、1年前にいただきました。

棒とはなにか、頭に浮かんだのは『棒がいっぽん』高野文子の漫画。「棒がいっぽんあったとさ、・・・」絵描き歌のはじまり、シーンとシーンの間から、想像をかき立てる。ある物から発見が引き起こさせることを考えていたとき、前述の長い棒が壁に立てかけてあった。

この問いかけとなった企画展「長物のショートショート」の参加作家、宣伝美術や図録のアートディレクションとデザインも手掛けています。30組の出展者が採取した90本の棒(長物)と、それにまつわるナラティブが展示されます。

渋谷東の (PLACE) by methodにて、5月13日〜 5月28日(日定休)まで開催。天候が良ければ、doinelから散歩しながら観に行けます。
 

石井すみ子 手織り綿布巾


石井すみ子さんの手紡ぎ手織りの綿布は、短辺のみを手縫いした布巾。生地(素材)そのものに見えて、吸水性と耐久性がある。使い込んでいくと柔らかくなり、生活に定着していきます。
 

バスマットに転用したシャワータオル


バスマットらしくない、バスマットを探していたとき。doinelのスタッフから「Vaxbo Linのシャワータオルを縫い直せば、バスマットに使えませんか?」と提案いただきました。

ミシンで縫製したリネン100%のテキスタイルは、バスマットと呼ぶには小ぶりのタオルサイズだけど、吸水性・速乾性に優れている。

テキスタイルはサイズにより、用途を示す名前が変わる。改めて考えると、他にはない物の捉え方ではないか。

個人が生地を簡単に仕立てるようになった背景に、家庭用ミシンの普及があります。1920〜30年、雑誌ではスタイルブックという名前が登場し、戦後も『暮しの手帖』前身の雑誌『スタイルブック』として、洋裁の方法を編集していました。

物のない時代に1つの生地(素材)から、複数の物を作れるテキスタイル。素材を余すことなく使い、用途を表す名前が多いことは、さまざまな暮らしと親密な素材と物である。

また「DIY」も同じ背景から普及しています。1945年、終戦後のロンドンでは破壊された街を自分達の手で復興させる国民運動が始まった。 そのスローガンは「D.I.Y.」 =「Do it yourself」。
 
▲上:chiobenの使い捨てわっぱの弁当箱に、梱包の緩衝材(古紙)を巻いたポプリ入れ / 下:MARUHIRO SPRAYの長角膳。デッドストックの漆器や木地に塗装を施すアップサイクル。

いま社会情勢により、資源や素材の高騰、環境問題がスピードを上げて見えてきている。現代の私たちには、物はある。物をひとつの素材として使い、誤用・転用やブリコラージュができる。

個人や小商いからも、小さな工夫を作り・伝える。従来の製品クオリティー、個体差のない製品とは別の見方から、物を愛でる方法を見つけましょう。

(つづく)

 


 

Photo: Takuroh Toyama

熊谷彰博
AK_DD 代表
2007年より、物の見方を探求し、独自の視点から文化的な媒介として、デザインとディレクションを手がける。さまざまな相談への着想と文脈の再構築から、デザイナー”など”のなど業が広がり続けている。

無印良品 池袋西武 企画展「STOCK展」企画・監修・会場構成、21_21 DESIGN SIGHT 企画展「雑貨展」コンセプトリサーチ、「柳本浩市展」キュレーター、オリンパス純正カメラバッグ「CBG-2」プロダクトデザイン。2021年、初の個展「OBJECTS」を開催。

編書に、『STOCK』(MUJI BOOKS、2017)がある。

http://alekole.jp/

 
my essentials by Akihiro Kumagaya
#01 物買ってくる  自分買ってくる

#02 おおらかな、器具
#03 素材と物、ブリコラージュ
#04 選ぶ、動機の発見
#05 凸凹な、ニュートラル
#06 見えない物を、あらわす

≫ journal topページ
https://doinel.net/journal

 


 
Text & Photo:Akihiro Kumagaya
Edit:Yuki Akase

update: 2022.05.17

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