journal, storyInterview with Etsuji Noguchi

(4) 新しい可能性を探る、野口悦士の現在地とは?


 
地に根ざすかのように、プリミティブで力強い。それでいて古さを感じさせず、生活になじむシンプルでモダンなうつわ。それが陶芸作家・野口 悦士(のぐち えつじ)さんの作品です。

陶芸を志して種子島に渡り、唐津・アメリカ・デンマークなどでの滞在制作を経て、現在は鹿児島を拠点に活動しています。

最終話では、師匠である陶芸家の中里隆さんからの学び、デンマーク滞在とKH Würtz(コーホーヴューツ)と交流を経て、野口さんがいま現在取り組んでいる、表現手法についてお話を伺いました。

 


 

焼き上がりに変化を加える

第3話で「いまが一番楽しい」とおっしゃっていた野口さん。今回展示するうつわは、どんな素材や焼きかたがポイントなのでしょうか。

「土は1種類のみに絞りました。安定して作品をつくるためにも、ここ数年は種子島の土ではなく、それによく似た岐阜の土を仕入れています。

鉄分がかなり多い土なので、そのまま焼いたら赤や黒や茶色にしかならないのですが、白い釉薬をかけたらまた変化があるんです。

土によって釉薬の色の出方も変わりますが、この土だからこその発色を大切にしたいと思っています。釉薬をかけても元の土の表情が見えるくらいのニュアンスが僕は好きですね」

さらに野口さんは釉薬ですらも1種類に絞ったうえで、日本の伝統的な陶芸に立ち返った焼きかたにも挑戦しているそう。


「釉薬と焼成の組み合わせでも、バリエーションを出してみました。

焼きかたには『酸化』と『還元』という2つの種類があるのですが、『酸化』は酸素が豊富な状態で焼くことで、『還元』は酸欠の状態で焼くことをいいます。同じ土と釉薬でも、この違いで全然色が変わるんです。

つまり、1つのお皿に1種類の釉薬でも、『酸化』で赤を『還元』で黒をつくることができる。僕はそれを面白がっていて、この手法で仕上がりのバリエーションを増やしています。

うつわの大きさやデザインは、収納しやすさや日常的な使いやすさを意識してつくりました。パン1個でも、果物を乗せてもいいし、夜はお刺身のせたりいろんな選択肢を残して。使ってくださる方の想像力をかき立てる作品になっていたら嬉しいですね」

また、ご自身でも基本だという白釉の作品や、ざらざらとした質感のあるうつわもご用意いただける予定です。いまの野口さんを体現したうつわをぜひ覧ください。

 

照明に魅せられて


最後にdoinelのコンセプトにちなんで、野口さんの暮らしの中で、ご自身の感性が豊かになる魅力を感じているものや、陶芸以外に関心を寄せているものについてお聞きしました。

「もともとデンマーク好きだったこともありますが、実際に行ってからは北欧の照明が大好きになって、少しずつ集めています。いま自宅にはLouis Poulsen(ルイスポールセン)のPH4/3やPH5、スノーボールといった照明があります。

デンマークはどの家庭を訪ねても、照明がすごく素敵なんですよ。冬は16時ぐらいに暗くなって、朝は8時すぎにようやく日が昇る。白夜ほどではないにしても、日本人からすればびっくりするほど夜が長いんです。

冬にデンマークに行ったときは、照明の灯りを見たいがために『早く夜にならないかな』って思っていました。ずっと住んでる人はうんざりしているかもしれませんが。最近は僕も、照明をつくってみたりしています」

北欧の人々にとって、照明は家の中を照らす太陽であり、眺めるだけでほっとできる焚き火のような存在なのかもしれません。

一方でうつわは、料理を引き立てることで食卓を豊かにし、人が集まり賑わう空間をやさしく照らすもの。野口さんが学んできたうつわづくりとの、共通点が見えてくるようです。

日々、自らの作風の変化を楽しんでいる野口さん。今後の作品について何か考えてることはあるのでしょうか。


「種子島時代からこだわっている質感や形については、これからも続けていくつもりです。中里先生から学んだことも、KH Würtzで学んだことも、もっと取り入れていきたいですし、両方を掛け合わせていきたいと思ってます。

そうはいっても形のバリエーションに関しては『もうこれ以上新しい形はないのでは?』と、自分の中でほぼ完成している気がしていて。

中里先生の教えのように料理を引き立てることが一番の目的だと思っているので、形はもっとシンプルでシャープに。質感に関しては、自分の興味に任せてどんどん可能性を追求していきたいですね」

全4話にわたり、野口さんのものづくりの裏側に迫るインタビューをお届けしました。7月30日(金)よりdoinelにて開催される、野口悦士 作品展「Sight the Soil」をどうぞお楽しみに。

(おわり)

 


 

野口 悦士(のぐち えつじ)
1975年、埼玉県生まれ。陶芸を志して種子島に渡り、アメリカ・デンマークなどでの滞在制作を経て、現在は鹿児島に拠点を置く。2006年より中里 隆氏に師事。2018年にデンマークのKH Würtzにて薪窯築窯。土と釉薬、焼成を巧み扱い、プリミティブで力強く、モダンな存在感を放つうつわをつくり続けている。

https://etsuji-noguchi.com/

 
野口悦士 作品展  Sight the Soil
会場:doinel (ドワネル)  東京都港区北青山 3-2-9
会期:2021年 7月 30日(金) – 8月 10日(火)
営業時間:12:00 – 19:00 水曜定休

◯状況により整理券配布、または入店をお待ちいただく可能性もございます。
◯会期の途中より、一部 online store でも展開予定です。

 
Interview with Etsuji Noguchi
(1) 陶芸家を目指して種子島へ
(2) 40歳。人生の転機とデンマーク
(3) 削ぎ落とされた「土と釉薬」の選択肢
(4) 新しい可能性を探る、野口悦士の現在地とは?

≫ story TOPページ
https://doinel.net/journal/category/story

 


 
Photo credits:Etsuji Noguchi(1枚目をのぞく)
Writing:Yukari Yamada
Interviewer & Edit:Yuki Akase

update: 2021.07.30

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