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(3) 削ぎ落とされた「土と釉薬」の選択肢


 
地に根ざすかのように、プリミティブで力強い。それでいて古さを感じさせず、生活になじむシンプルでモダンなうつわ。それが陶芸作家・野口 悦士(のぐち えつじ)さんの作品です。

陶芸を志して種子島に渡り、唐津・アメリカ・デンマークなどでの滞在制作を経て、現在は鹿児島を拠点に活動しています。

第3話は、前回に引き続き野口さんの価値観に大きな変化をもたらした、デンマークのKH Würtz(コーホーヴューツ)についてお話をうかがっていきます。

 


 

合理化の先に見えた、新たな表現の可能性

KH Würtzの作品の最大の魅力ともいえるのが、うつわ一つひとつが持つ、豊かな表情です。野口さん自身もこの質感の違いはどのように生み出されているのか、とても気になっていたそう。

「彼らの制作過程を見て驚いたのが、土はたったの1種類、釉薬は基本的に3種類しか使っていないことでした。全自動のガス窯を使うことで焼き上がりの揺らぎもほどんどく、独特な表情は釉薬の付け方によって生み出されていたんです。

例えば『白・黒・透明、白・透明・黒』と3つの釉薬の組み合わせを変えています。この塩梅がもう絶妙で、濃度も使い分けながらあのバリエーションを出しているんです。スプレーで釉薬を吹き付けていることもあり、少ない要素でバリエーションを出すという考え方は、とても大きな衝撃でした。

表情を生み出すために『安定して不安定をつくる』と言いますか。僕が知らないだけで、日本でもこの手法をやっている人がいるかもしれませんが、鹿児島で手に入る素材や電気窯でも、まだまだできることもいくらでもあると気づきました。価値観が大きく変わった瞬間です」


あらゆる素材や風合いに揺らぎを求めるのではなく、クオリティを保ちながら、少ない選択肢の中で表現の可能性を広げていく。KH Würtzが世界各国からのオーダーに対応できる秘訣がそこにはありました。

そして野口さんの作品は、KH Würtzの滞在を経て大きく変化していくことになります。

「もちろん今でも焼き上がりで変化やムラを出す日本の伝統的な手法も好きですし、これからもやっていきたいと思っています。しかし、もうひとつ全く違う価値観を得た感覚です。

僕にとって中里先生から受けた影響も大きなものですが、KH Würtzからも多くのことを学ばせてもらいました」

 

文化の違いから、学びあえたもの


さまざまな影響を受けたうえで、野口さんの作品はどのように変化していったのでしょうか。

「種子島にいた頃は、素焼きのような土の風合いを色濃くしたものや、形を一つひとつ際立たせるような作品もつくっていました。若かったので、気になることはがむしゃらにやっていましたね。

しかしデンマークに通うようになって、サイズやかたちは同じでも、釉薬の使い方や色の出し方といった仕上げの部分で違いを出すことも増えてきました」

国ごとのつくりかたや考えかたの違いを吸収して、模索しながら生まれてゆく野口さんの新たな作品。一方でKH Würtzの人々にとっても、野口さんの制作方法が大いに刺激になったようです。

「彼らがつくるうつわは主にレストランで使われるので、洋食器らしいお皿をひたすらつくっています。

僕がつくってみせたのは、角瓶や楕円のボトルなどろくろだけではつくれないフォルムや、薄くて少し深さをもたせたような主に和食に使ううつわです。彼らの普段の食卓では使わないものです。例えば片口とかもつくるんですけど、興味津々で見ていますね。

デンマークのレストランでも、日本酒を提供するところが増えているみたいで、僕がぐい呑みをつくってみせると、『なんでそんなに酒器が小さいんだ?』とか質問が飛んできます。

ちなみに、日本とヨーロッパとではろくろの回転の方向が逆なので、よく違和感があると言われます」


そこで野口さん自身が最も大きな違いを感じたのは、うつわの量産方法だったといいます。

「彼らはどんなうつわでも全て一つずつつくるんです。大きなお皿も盃も、1個分の粘土をろくろに置いて、成型し終わったら板に移して、次の粘土をまた持ってくる。それを何度も何度も繰り返していました。

日本の場合は、大きな粘土の塊をまとめてろくろに置いてうつわ1個分の土を練り出し、矢継ぎ早に何個も成形して積み上げていく。どんどん量産できるつくり方です。

僕にとっては小さな盃をたくさんつくることはそれほど大変ではないので、1時間に100個ほどつくるとみんな喜んでくれます。

逆にKH Würtzの場合は、うつわのサイズやかたちを規格化することで、量産しやすくしています。大きなお皿もどんどんつくっていくので、そこは僕にとって学びになりました」

「手早くつくる」は、中里さんの教えにもあったこと。手を速く動かすだけでなく、プロセスそのものでも改善ができます。文化や気質の違いが、お互いのプラスになった経験でした。

デンマークで吸収したことを糧に、さらなるオリジナリティに向かって野口さんは突き進みます。

「ありがたいことに僕は、中里先生とKH Würtzのいいとこ取りをさせてもらっていると考えています。さらにここ3、4年は自分がどんどん変化していて、いまが一番仕事が楽しいかもしれないです」

そう嬉しそうに話す、野口さん。つづく最終話では、7月30日(金)よりdoinelで展示がスタートする、最新の作品についてご紹介します。

(つづく)

 


 

野口 悦士(のぐち えつじ)
1975年、埼玉県生まれ。陶芸を志して種子島に渡り、アメリカ・デンマークなどでの滞在制作を経て、現在は鹿児島に拠点を置く。2006年より中里 隆氏に師事。2018年にデンマークのKH Würtzにて薪窯築窯。土と釉薬、焼成を巧み扱い、プリミティブで力強く、モダンな存在感を放つうつわをつくり続けている。

https://etsuji-noguchi.com/

 
野口悦士 作品展  Sight the Soil
会場:doinel (ドワネル)  東京都港区北青山 3-2-9
会期:2021年 7月 30日(金) – 8月 10日(火)
営業時間:12:00 – 19:00 水曜定休

◯状況により整理券配布、または入店をお待ちいただく可能性もございます。
◯会期の途中より、一部 online store でも展開予定です。

 
Interview with Etsuji Noguchi
(1) 陶芸家を目指して種子島へ
(2) 40歳。人生の転機とデンマーク
(3) 削ぎ落とされた「土と釉薬」の選択肢
(4) 新しい可能性を探る、野口悦士の現在地とは?

≫ story TOPページ
https://doinel.net/journal/category/story

 


 
Photo credits:Etsuji Noguchi(1枚目をのぞく)
Writing:Yukari Yamada
Interviewer & Edit:Yuki Akase

update: 2021.07.29

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