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journal, storyInterview with Etsuji Noguchi

(2) 40歳。人生の転機とデンマーク


 
地に根ざすかのように、プリミティブで力強い。それでいて普段の生活になじむシンプルでモダンなうつわ。それが陶芸作家・野口 悦士(のぐち えつじ)さんの作品です。

陶芸を志して種子島に渡り、唐津・アメリカ・デンマークなどでの滞在制作を経て、現在は鹿児島を拠点に活動しています。

第2話ではデンマークのアーティスト・イン・レジデンスでの滞在生活と、現在の作風に大きな影響を与えたという、デンマークのKH Würtz(コーホーヴューツ)との交流についておうががいしました。

 


 

デンマークで窯をつくる

1999年から種子島を拠点として、陶芸家としての道を歩み続けてきた野口さん。しかし2016年に離婚や子どもの進学といった環境の変化を機に、鹿児島市内に拠点を移します。

野口さんはちょうど40歳になったばかり。この転機に、かねてより興味を持っていたデンマークを訪れることに。観光目的の旅行ではなく、陶芸を絡めた滞在にできないかと調べてみると、アーティスト・イン・レジデンスの募集を見つけました。

「応募の際に陶芸をしていることに加えて、2011年に中里先生とアメリカの北アリゾナ州立大学で窯をつくったことを伝えたら、『うちでも窯をつくりませんか?』と返事がきたんです。

自費で行くつもりだったのですが、築窯(ちくよう)のワークショップとして、先方が費用を出してくれてることになったので、『それはぜひ!』と二つ返事で引き受けました」

訪れたのはデンマークとドイツが接する、ユトランド半島の北方に位置するトルネという地域。すぐそばに森がある、自然が豊かな村です。野口さんは現地のスタッフと一緒に、自身が考案した窯の制作に取りかかりました。

▲『スイッチバックキルン』築窯中の野口さん、焼成室が水平なのがポイント

「一般的な薪窯は焼成室に傾斜をつけて、低いほうの端に焚口(たきぐち)を、高いほうの端に煙突を配置します。火を焚くと焼成室を通って、煙突側に向かって炎が流れていく仕組みになっています。

対して僕たちの設計した『スイッチバックキルン』は、水平な焼成室の両端に煙突と焚口を1つずつつけるというもの。

『スイッチバックキルン』の一番の特長は、焼成時間を大幅に短縮できること。窯の大きさにもよりますが、通常の窯が3〜4日かかるところを、丸2日かからずに焼き上げることができます。

仕組みとしてはまず片方の煙突を塞ぎ、塞いだ側の焚口から火を焚きます。すると、開放しているもう一方の煙突に向かって火が流れる。焼物が半分程度焼けたら、今度は反対側の煙突を塞いで、こちらから火を焚く。

つまり火の流れを反転させるんです。2回の火入れで窯の中の温度が効率よく上がるから、早く焼けるんですよ」

種子島で中里さんと初めて完成させた『スイッチバックキルン』。それを中里さんが各所に紹介し、2号機を北アリゾナ州立大学に、そしてデンマークへの招聘に繋がったのでした。

 

念願だったKH Würtz(コーホーヴューツ)への訪問

野口さんがデンマークを訪れた目的は、もう一つありました。世界ベストレストラン1位に4度も輝いたコペンハーゲンの「ノーマ」などのうつわを手がける、KH Würtzを訪ねることです。

KH Würtzの創設者であるAage Würtz(オーゥ・ヴューツ)は、日本の民藝運動にも深い関わりのあるイギリスの陶芸家、バーナード・リーチの工房で学んだ経歴の持ち主でもありました。

「以前から作品は知っていたので、デンマークに滞在することがあれば、KH Würtzに絶対に行ってみたいと思っていました。最初に訪れたのはトルネでの築窯のプロジェクトを終えて、帰国するまでのほんの数時間です。

これはアメリカでも感じたことですが、海外では日本の陶芸がとてもリスペクトされていて、陶芸をやっている日本人というだけで手厚く歓迎してくれるんです。先人たちに感謝ですよね。

KH Würtzのかたもとてもよくしてくれて、工房の中や作品をいろいろ見学しました。しかも『これから焼くので何かつくっていかない?』と誘ってくれて、僕も嬉しくなって40分ほどの間にたくさんつくったら、それもまた喜んでくれました。

▲野口さんがデンマークの師匠と呼ぶ、Aage Würtz氏と

KH Würtzは世界中のレストランから注文が絶えないようで、『君みたいな人が来てくれたらいいのに』と誘っていただきました。なので『また来月にでも手伝いに来ますよ』と、その場で約束をしました」

準備期間などもあり実現は4ヶ月後になりましたが、改めてKH Würtzに1ヶ月半ほど滞在することに。工房にある個室やキッチンを使うことができたので、滞在費用の面でも助かったといいます。

「日中は彼らの仕事を手伝うことを条件に、空いた時間は自分の好きなものをつくらせてもらえることになりました。

北欧では働き方改革が進んでいて、KH Würtzも週休3日制をとっています。勤務時間も朝は8時半頃に始まって、16時には完全に誰もいなくなるので、夕方以降や週末の時間を利用して制作に打ち込むことができました」

 

2度目の訪問。KH Würtzでも窯をつくる

KH Würtzで野口さんが感心したのは、タッチパネルで操作できる全自動ガス窯でした。火力を完全にコントロールできるため、ムラなく焼き上がります。それは日本の陶芸文化からすると珍しく、実に合理的な方法でした。

「ガス釜を目の当たりにして、彼らは焼く工程に変化を求めていないんだと思いました。しかし、よくよく聞いてみると実は日本的な窯でも焼いてみたかったそう。

僕が簡単な設計図を書いて見せたら、次回はこれつくりたいということで、また滞在できることになったんです。

KH Würtzはいままでのスタイルも保ちながら、変化をいとわず、新しいことに挑戦しようとする姿勢に感銘を受けました」

そして野口さんは、2018年に再びKH Würtzを訪れます。

「今度はスイッチバックキルンでもない、とてもコンパクトな窯を作りました。それは僕が種子島を出てから、いままで使っている窯でもあります。

種子島にいたころは、大きな窯で煙も気にせずに焼ける環境でした。しかし鹿児島市内では、大きな窯を置いても迷惑にならないような広い場所を持てなかったので、やむにやまれず小さな窯を考えたんです。結果的にはこれでよかったなと思っています」

▲コンパクト窯の築窯風景

野口さんが考えた窯の大きさは、約0.3立方メートル。家庭用冷蔵庫ほどのコンパクトさですが、それでもマグカップや皿を一度に100〜200個は焼くことができるそう。野口さんの現在の作品はこの窯によってつくられています。

「大きい窯であれば一度にたくさん焼けますが、その間ずっと火を見ていないといけません。何日間もつきっきりで焼きたくなかったこともあって、1日で焼き上がるサイズにしました。

また、彼らも大きい窯で2〜3日間、寝ずの番をしてまで焼きたくはないと話していました。僕の考えた釜なら、前日に詰めておけば翌朝に火を焚いて夜には焼き上がります」

アメリカで体験した発想の自由さを応用して、環境や状況に合わせた制作方法を見つける野口さん。その挑戦の最中、KH Würtzではさらに新たな体験が待っていました。

 


 

野口 悦士(のぐち えつじ)
1975年、埼玉県生まれ。陶芸を志して種子島に渡り、アメリカ・デンマークなどでの滞在制作を経て、現在は鹿児島に拠点を置く。2006年より中里 隆氏に師事。2018年にデンマークのKH Würtzにて薪窯築窯。土と釉薬、焼成を巧み扱い、プリミティブで力強く、モダンな存在感を放つうつわをつくり続けている。

https://etsuji-noguchi.com/

 
野口悦士 作品展  Sight the Soil
会場:doinel (ドワネル)  東京都港区北青山 3-2-9
会期:2021年 7月 30日(金) – 8月 10日(火)
営業時間:12:00 – 19:00 水曜定休

◯状況により整理券配布、または入店をお待ちいただく可能性もございます。
◯会期の途中より、一部 online store でも展開予定です。

 
Interview with Etsuji Noguchi
(1) 陶芸家を目指して種子島へ
(2) 40歳。人生の転機とデンマーク
(3) 削ぎ落とされた「土と釉薬」の選択肢
(4) 新しい可能性を探る、野口悦士の現在地とは?

≫ story TOPページ
https://doinel.net/journal/category/story

 


 
Photo credits:Etsuji Noguchi(1枚目をのぞく)
Writing:Yukari Yamada
Interviewer & Edit:Yuki Akase

update: 2021.07.28

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