
Drifting Objects
見たことのない陶芸作品、でもどこか見覚えのあるようなテクスチャー。自然物の観察を陶土に落とし込む、陶作家 植田佳奈(うえだ かな)さんによる作品です。
土での質感表現の可能性を探る新しい陶芸を目指し、明確な用途を持たない感性的なものづくりに向き合っている植田さん。長い時間をかけて波に削られてきた石や、動物の毛並みの流れ、蚕の繭の肌理など。自然物の生成過程や、質感・形態がどのように構成されているかをじっくりと観察し、得られた気づきを作品に落とし込んで制作しています。
「象嵌一輪挿し」は、気の遠くなるような工程を経て作られる、精緻な象嵌が施された作品。底面まで微細な線や点で覆い尽くされ、その細かさは目で追うのが困難なほど。作品ごとに紋様のピッチや形状は異なり、それぞれの質感が指先からも伝わります。
基本的に用途のあるものではなく、石ころのような存在のものを作ろうとしているという植田さん。さらさらと軽やかな存在感と、見ていると引き込まれていく凝縮された要素は、森や海岸で拾い集めた自然物のような魅力があります。
メラミンスポンジに泥状の粘土を染み込ませて焼成、スポンジは全て焼き飛び、粘土だけが残る多孔質の作品。スポンジの質感がそのまま土に置き換わった、細かい気泡をたくさん孕んだ形は、手捻りやロクロでは作ることができない軽やかさです。