journal, columnmy essentials by Maki Nakano #02 なぜか惹かれる無彩色

突然ですが、好きな色はありますか?

私は言葉が咄嗟に出てこない、かなり熟考するタイプなので、自分の好みをスラリと話せる人に憧れます。好きな色についてもこれが好きだ!と胸を張って言えたらいいのですが、厄介者の私は「なんでその色が好きなんだろう」と意味まで考えてしまいます。シンプルに生きられたらどれだけ楽なのか。

今回は色、と言っても “無彩色” について惹かれるその意味を考えていきたいと思います。

無彩色……白、黒、グレー、シルバー、透明なものまで様々です。手に取るものがたまたまなのか無意識に無彩色が増えていっており、集めているというよりは気付いたら集まっていたという感覚です。

並べては組み替えてを繰り返し眺めるのが好きな私は、自宅のいたるところにステージを作り、マイルールのもと配置された無彩色のオブジェたちを楽しんでいます。

 

佐々木さんの黒いオブジェ

私の友人であり、家具を製作している佐々木家具造形研究所の佐々木さんが作るオブジェ。アトリエに伺ったある日、ずらりと並んだ黒いオブジェを見せてくれました。作りたいから作ってみた、と紹介してくれたのですが、大小様々のオブジェが並んだ姿が圧巻で、一瞬で心惹かれてしまいました。以前から彼を知る私にとっては普段の作品とは違う方向性だったことにも驚いた記憶がありますが、後々よく聞いてみると彼らしい考えのもと作り出された作品でした。

彼曰く “幾何学は古来から存在している形。それ以上も以下もない形だから良い“ とのこと。とてもシンプルですし、腑に落ちる感覚でした。 “思考を重ね、試行する” の繰り返しで製作している事を知っているからこそ、作りたいから作ったという瞬発的に生まれた作品に心を動かされました。形こそミニマムですが、存在感を放ち、強さを感じる理由は、細部がピン角、すべすべに磨かれた面と抜かりない姿だからなのだと思います。そのまま単体で、あるいは複数を重ねてみたり、ブックエンドとしての用途を持たせてみたり。形に強さがあるのに使う、飾る、が使い手に委ねられ、自由なところも惹かれる点です。

 

岩田さんのアクリルオブジェ

昨年、青山のinformationでの個展の際に購入させて頂きました。テーブルウェアを作陶されている傍ら、オブジェなども製作されております。こちらは土をアクリル樹脂でコーティングしたもの。幼い頃から見てきた風景、建築、マテリアルなどを閉じ込めて作ったという作品です。

陶芸家の岩田哲宏さんがインスタで発信されている内容を見ると、私も街の中で無意識に追っている景色と似ている時があり、畏れ多いですがその感覚分かる……と共感することがあります。

工事現場の風景への独自の解釈や首都高の骨組みに対する潔い感想など、発信内容を見ながら共感している者として、幼い頃に見てきた原風景が作品に投影されている点にグッときてしまいました。フロスト加工された表面により中に閉じ込められた物体がはっきりと見えない点も良いですし、樹脂そのものの塊もいい。これからの経年変化も楽しみです。

 

佐々木さんのテーブルとスパゲッティチェア

無彩色との組み合わせの妙にもフォーカスを当てたいと思います。

自宅で使用しているダイニングテーブルは先にご紹介した佐々木さんに作って頂きました。デザイン、サイズ感のバランス、意匠、どのポイントを切り取ってみても素晴らしく、使うほど好きになるテーブルです。細い脚部が好みであること、コンパクトなサイズがよい、依頼の際にお伝えしたのはこの2点のみでしたが、理想を越えるテーブルが完成し、届いた時は大変歓喜しました。彫り込まれた幕板、脚部の継ぎ目、注目するとアールになっている箇所があったりと、目で見て触って発見する拘りのポイントが沢山ありとても感心しています。

合わせているのはMoMAのパーマネントコレクションにも選ばれたSpaghetti Chair(スパゲッティチェア)。Giandomenico Belotti(ジャンドメニコ·ベロッティ)がデザインしたAlias社のものです。言わずと知れた名作チェアですが、迎えてみて初めて感じることがありました。存在感があり過ぎるわけでも、無いわけでもありません。PVCコードが巻かれたデザインは個性的ですが不思議と空気のように溶け込んでいます。これはグレーの枠組みにクリアのPVCコード、とカラーによる効果が大きいのだろうと思います。

それらが組み合わさった空間は、格別に良いと思いますし、見る度にテーブルと椅子がピタリと合うなぁと心地良い気持ちで過ごせています。


poubelleで出会ったもの
仕事柄、スタイリングで使えるかもしれない何かをいつも探しています。本来の使用目的ではない視点でモノ探しをする事も多く、一見すると何に使うのか疑問を抱かれそうですが、色合いがほぼ近似値で無彩色である点は共通しています。

よく伺うお店の一つに西荻窪にあるpoubelleさんがあります。店主の矢澤さんと話すアートのこと、何でもない話が楽しくてつい長居してしまいます。ニュートラルに色々な事を見て分析している方で、何でもないモノに意味を持たせるのが上手いひとという印象を持っています。購入したモノにも無彩色がたくさんありました。

それらは使うというよりは飾って楽しんでいるものがほとんどです。色の褪せたプラスチック製のお皿はほんのりとブルーがかったクリアな色が綺麗でした。プラスチックの茶筒は日高大吾さんの作品。絶妙なフロスト具合が気に入りオーダーしました。お店では中にリボンを入れて飾られていたのですが、その溶け具合がたまらなくささりました。

写真家・津村吉乃さんの作品《埃》glassine paperはpoubelleで写真展が行われていた際に購入したものです。封筒の中に閉じ込められた粒は光を纏うとより一層輝くだろうと思い、日中光の入る場所に飾っています。

矢澤さんの審美眼によって並べられたものにはひとつひとつ意味があり、インスタなどで発信されるアートと絡めた考え方は流石だなといつも感心させられる事ばかりです。会話の流れでふとその内容に沿った本を差し出して下さることも多く、いつも勉強しに行くような気持ちで伺っています。

 

用途のないあれやこれやホームセンターなどもワクワクする場所の一つです。コンクリートの塊、プラスチックの波板、シルバーの網、pvc素材のネット、ただの紙、緩衝材、アクリル、紙テープ、あげ出すとキリがないですがざっと見ても無彩色であることは変わりません。

これらも色々な撮影プロップとして使用してきた大切なモノです。せっかくなので自由に置いてみようと試みた結果、コンクリートはベッドサイドの棚に、波板はただ存在しているだけで良いし、緩衝材もそのまま棚の中に飾り、紙のテープはたらりと置くだけで様になってしまう。


勿論独自のマイルールによるため、これが正解とは言えませんが、並べられていくそれらには愛着しか湧きません。

さて、ここまでこれだけ述べてきたのですから、私の好きな色、今は無彩色なのでしょう。

この先も絶対にこの好きは、ゆるぎません!と断言はできませんが、主役にも、繋ぎの役割にも、見せ方次第でどんな姿にも変わっていくから、惹かれてしまいます。今は無彩色をとことん取り入れながら生活していこうと思います。

 


 

中野 真季
大学卒業後インテリア会社にて8年勤務、ショップディスプレイ、コーディネート提案など幅広く活躍。2019年より、本格的にインテリアスタイリストとして独立。衣食住を中心としたライフスタイルについて、独自の感性を生かしたスタイリングを雑誌やWEB、広告など多数提案している。

Instagram : https://www.instagram.com/ikamtany/

my essentials by Maki Nakano
#01 ガラスの魅力
#02 なぜか惹かれる無彩色

 

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Text & Photo:Maki Nakano
Edit:Megumi Saito

update: 2023.06.02

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