journal, storyInterview with Mariko Hirasawa

(3) 「いつも自分を整えて、信じてあげる」


イラストレーターや版画家、またエッセイストとして、多岐に渡る分野で活動する平澤まりこさん。
広告や書籍、商品パッケージなどのイラストレーションを手掛けながら、近年ではモノタイプと言われる版画を中心に個人的な表現にも力を入れています。
さまざまな表現に向き合うしなやかな姿勢や、クリアな眼差しの背景にあるストーリーとは?

最終話は、平澤さんのインスピレーションの受け取り方、表現に向かう姿勢のお話。また、個人的に楽しんでいる「お気に入り」についてお教えいただきました。

 


 

「内側」を澄ませて、考えることを手放す

—インタビューの第1話では、内面的な表現へと向かっていったとお話しされていましたが、どのようにインスピレーションを受け取っていますか?

平澤さん: インスピレーションは、とても大事なものです。
それをきちんとキャッチするために、自分を整えておかないといけないと思っています。私は犬を飼っていて散歩をすることが日課ですが、緑がとても気持ちのいい場所があって、ほぼ毎日そこへ行って深呼吸をしています。
呼吸を整えて心を静かにする時間を持つと自分の内側が澄んできて、本当に必要なものや描きたいものが浮かんできます。
それから、自分を信じてあげるということも大切にしています。信じてあげないと、つかもうとしていたインスピレーションもつかめない。「今日はいいものが出来る」って信じるんです。
工房に向かう車の中でも、リラックスするようにしています。普段から制作とは関係ないちょっとした時間にスケッチはたくさんしているのですが、それを制作の前に見返したり考えたりということはあまりしません。頭の中で考えることには制限が出来てしまうから、それを手放して、工房ではなるべく直感で作業します。
イラストレーターの仕事は求められることに応えようと頭で考えることが多いのですが、絵画は自分の求めることを自由に描けばいい。考えることで自分に制限を設けないようにしています。

私は自分の絵ではずっと馬と月(太陽)ばかり描いているのですが、そればかりでは見る人が面白くないのではないかと思うこともありました。でもそれも自分の外側のことですよね。自分が本当に描きたいのであれば、外側に気を遣うことなく正直に描けばいいと思うようになりました。

—馬と月(太陽)をよく描かれているとおっしゃいましたが、平澤さんにとって象徴的な存在なのですか?

平澤さん: 馬にはずっと憧れのようなものがあります。
凛として美しい佇まいでありながら、目の奥にはどこか愛情深さをたたえている。それから必要な場所へ連れて行ってくれるという、動物ではない何かの遣いのような神秘的な存在にも感じています。体の曲線やフォルムも美しいので思わず描いてしまう対象です。

絵の中では、馬に人や動物を含めた地上の存在を投影しています。
対して月は地上のものではない、もっと大きい世界の象徴として描いています。私が描く月は三日月のような欠けたものではなく、まん丸の月ばかりなのですが、それは常に世界が満たされていてほしいという願望を込めているように思います。そして時には太陽と捉えていただくこともできるかと。
そこには正解というものはなくて、見る方々それぞれの想像力に委ねながら描いていて、そこで何かを感じて共鳴していただけるところがあれば嬉しいです。

 

よりシンプルに、ごまかさず

—コロナ以降で表現に向かう気持ちに変化はありましたか?

平澤さん: そうですね。色々な制限があったことで考える時間があり、ぼんやり思っていたことが明確になった気がします。そしていよいよ自分のやりたいことは後回しにせずにやらなきゃと思うようになりました。
特に東京のような場所にいると、情報が多いので自分自身の声に集中しづらいですよね。
でもこれからは、よりシンプルに、ごまかさず、自分を軸にして作品を作りたいと思うようになりました。
私だけでなく多くの方にとって、自分自身の豊かさや幸せについてもう一度考える時間になったのではと思います。

—コロナ禍となって、日常に取り入れるものとして絵を求める方が増えていると聞きます。ご自身の暮らしの中で、アート作品とはどのように付き合っていますか?

平澤さん: 絵画って以前はもっと特別な存在でしたよね。でもこのような事態をきっかけに、半径1メートル以内をいかに豊かにするかに目が行くようになったのだと思います。
私にとってアート作品は、自分に寄り添ってくれる存在。
私は自宅で自分の作品をあまり飾っていないのですが、大好きな作家さんの絵を、場所を変えながら飾ることを楽しんでいます。
ただ目に見える作品そのものというより、それを作った作家さんの熱量を受け取っている気がして、その想いと共存しているという気持ちがあります。熱量といっても一概にエネルギッシュなものという意味ではなく、ゆるい空気の絵には心をほぐされますし、力強い作品からはパワーを受け取ります。作品の周りにある作家さんの想いが、自分の日々に寄り添ってくれているという気がします。

—最後の質問になりますが、doinel では必需品ではないけれどあると気分が良くなるものを扱っています。平澤さんにとってのお気に入りのものは何でしょうか?

平澤さん: 私の日々の中でキャンドルは欠かせない存在ですね。香りのよいものなどを何種類か持っていて、気分に合わせて楽しんでいます。
本当だったら暖炉の火でも眺めていたいですが(笑)、それはなかなか難しいですよね。キャンドルって手軽なのに食卓に一つあるだけで温かくなる。心を落ち着かせてくれるものでもありますが、贅沢な気持ちにもさせてくれます。火が灯るだけで、時間や空間を豊かにしてくれますね。

—公園で深呼吸をして自分を整えるというお話もありましたね。キャンドルもそうですが、平澤さんのいくつかのエピソードを通じて、日頃から自分自身を通い合わせることを自然と大切にされているのが印象的でした。それが作品へのまっすぐな向き合い方にも結びついているのですね。
今日は貴重なお話をありがとうございました。

*    *    *

3話に渡りお仕事や制作のこと、ものづくりへの姿勢についてお伺いした、平澤まりこさんへのインタビュー。
12月4日(土)から doinel にて開催される作品展 “小さきもの 大きなひとつとなりて” で、ぜひ平澤さんの「描版画」をお楽しみください。

(おわり)

 
Interview with Mariko Hirasawa
(1) 絵を描くようになるまで
(2) 描くように刷る、1枚きりの「描版画」
(3) 「いつも自分を整えて、信じてあげる」

 


 

平澤 まりこ(ひらさわ まりこ)
主に東京を拠点に、イラストレーターや版画家、またエッセイストとして多岐に渡る分野で活動する平澤まりこさん。セツ・モードセミナー卒業後にイラストレーターとしての仕事をスタートし、2002年に初の著書『おでかけ手帖』を刊行。その後さまざまな連載やエッセイなどを刊行しています。
広告や書籍、商品パッケージなどのイラストレーションを手掛けながら、近年ではモノタイプと言われる版画を中心に個人的な表現にも力を入れている平澤さん。陶芸などの新しい素材や手法にも意欲的に取り組むなど、創造の幅を広げています。

https://www.instagram.com/mariko_h/

 
平澤まりこ 作品展
“小さきもの 大きなひとつとなりて”

会場:doinel (ドワネル)  東京都港区北青山 3-2-9
会期:2021年 12月 4日(土) – 12月 14日(火)
営業時間:12:00 – 19:00 水曜定休

◯会期の途中より、一部 online store でも展開予定です。

▼展示詳細はこちらから
https://doinel.net/21397
 

update: 2021.11.30

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