イタリア・トスカーナ地方の工房でつくられるChristiane Perrochon(クリスチャンヌ・ペロション)の作品は、様々な時代やシーンを超える普遍的な美しさを持っています。
彼女は「釉薬には無限の可能性がある」と話し、約40年以上釉薬について研究を続け、制作する作品のトーンはさまざま。これらはどのようなインスピレーションを得てつくられているのでしょうか?
今回doinelでは花器としてご提案できるアイテムに絞ってセレクト。それに合わせて、花と花器のことやコロナ禍における生活の変化など、現在の作品づくりについてお話を伺いました。
−−− 日本ではコロナ禍以降、これまで以上に家のことに関心が寄せられ、花や器を楽しむ人が増えています。イタリアでも同じような傾向が感じられますか? また暮らしにどのような変化がありましたか?
クリスチャンヌ・ペロション:イタリアはコロナに劇的に見舞われました。人々は突然習慣を変え、特に2020年の最初のロックダウンでは家に閉じこもって生活しなければなりませんでした。
私たちは幸い、トスカーナ州の奥まった美しい田園地帯に住んでいますが、一般的にはそのような環境を持てる人はわずかでした。
いま家は、誰にとっても快適に生活するための重要な役割を担っています。特に人との関わりが制限されているこの状況では、私たちの生活に関連するすべてのものが毎日重要な役割を果たします。
私のアトリエは田舎家の地下にあるため、ロックダウンの間も変わらず働き続け、自宅の周囲で野外を楽しむこともできましたし、自分自身と家族のためにより多くの時間を使うことができました。
−−− あなたにとって花はどんな存在だと考えますか? また好きな花は何ですか?
クリスチャンヌ・ペロション:もちろん花は日々の楽しみと、より良い暮らしに大切なものです。
人々はいま、家の中に花や自然をもっと日常的に取り入れ、季節の変化を感じることの必要性を強く感じているのではないでしょうか。植物の色や香りはそれぞれの季節を表現します。
例えば6月の初めには、色とりどりの花が森や野原に広がります。その中でもエニシダは、強い香りとフレッシュで鮮やかな黄色で風景を覆っていきます。春の終わりと夏の始まりを告げる花です。
また干し草の季節の直前に、ポピーは生き生きとした赤い色で牧草地の中に現れます。それは新しい季節の訪れであり、新たな時間のはじまりを告げます。だから私にとって花はとても重要なのです。
−−− 植物と花器はどのように組み合わせるのが好きですか?
クリスチャンヌ・ペロション:私は特に花を生けずに花器そのものを楽しんでいます。しかし花器は適切な花と組み合わせることで完璧な姿になります。一輪か花束か、組み合わせる花により形と色を選ぶことが非常に重要です。
私は温室で育てられたものよりも、より自然で生き生きとした野生の花を好みます。とても素朴な花から複雑で華やかな花まで、家の周りでも多く見つけられるものです。
自然の茂みに隠れて見えにくい控えめな野生の蘭から、普通のタンポポまで。それらは常に完璧で複雑な構造で私を驚かせます。もちろん私の庭にはたくさんの花が咲いています。それぞれ香りの異なる多くのバラ、家の壁を這う藤やジャスミン。そして森は、よりたくさんの種類の美しい花をもたらしてくれます。
花器は元の場所から切り離された、花のそれぞれのフォルムを強調することができます。そして私たちはそれらをあらゆる時間に、ちょっとしたタイミングで、リラックスして、または夢見心地で見ることができます。
特別な思い出として、旅先から花を持ち帰ることもできます。夏にサルデーニャを旅するとき、私はいつも花や野生のハーブ、木片などを持ち帰り、冬の間ずっと小さな花器で乾燥させます。サルデーニャの植物の香りはとても強く長持ちし、何ヶ月もの間その美しさを保ちます。
−−− あなたの作品は、色やフォルムともに有機的に感じられます。花や草木など植物から創作のインスピレーションを得ることはありますか? また、花器をつくる上で気をつけていること、大事なポイントがあれば教えてください。
クリスチャンヌ・ペロション:私が新しくつくる形や釉薬の多くは、自然からインスピレーションを受けています。私たちが住まいとして選んだトスカーナの地は、私の仕事に深く影響を与えたと確信しています。
私がつくり出す色は、季節ごとに色が変わるオークのなめらかな丘陵を想起させます。そして私は身の周りで見つけることができるものから、釉薬の名前を付けます。「ストームブルー」、様々な種類の「モスグリーン」など、それぞれの要素が表現されています。
花器の制作は非常に難しいプロセスです。 技術的には、私たちの花器はいくつかの手びねりのもの以外は、ろくろでつくります。 大量の粘土で背の高い形をつくることが難しいだけでなく、美しいフォルムをつくるための正確な曲線を得ることも困難です。
ドローイングは私にとってとても重要です。いつも最初に絵を描いてからろくろで形つくります。
−−− コロナ禍で、作品や活動にも変化は起きましたか?
クリスチャンヌ・ペロション:コロナ禍では以前のように旅行ができなくなり、私たちの生活に大きな影響を与えました。
私はいつも2つの場所で過ごしています。ひとつはアトリエと自宅のあるイタリアのトスカーナ。もうひとつはスイスのティチーノ地方です。そこに新しいアトリエと2番目の家があります。どちらも私にとって大切で、それぞれ同じように美しい田園地帯に囲まれています。
コロナによる移動制限がある間は、スイスの家には行くことができないため、とても恋しいです。
2番目のアトリエは、釉薬の研究のための場所です。ここには全ての色のサンプルがあり、新しい色について考えたり調色したりしています。
−−− 日本国内で印象的な場所や思い入れのある場所。インスピレーションを得られた空間など、もしエピソードがあれば教えてください。
日本はいつも私に刺激を与えてくれました。
初めて陶芸を体験したとき、私は古代中国と日本の釉薬の歴史を研究することを選びました。だから私は高温焼成の炻器(せっき・ストーンウェア)と磁器を扱っています。日本を訪れ、日本とその豊かな文化を個人的に発見することは、私の人生の感動的な瞬間でした。
それから私は日本で最初の展示会を開き、しばしば訪れることができました。日本に行くたびにとても興味深い日本の陶芸家に出会い、彼らの仕事を拝見しました。これらのことが、いまとても恋しいのです。
またとても親しい日本の友人である写真家の山本 豊氏が、日本での旅行の間、私たちに同行して様々な人々を紹介してくれました。日本人の「ガイド」なしで、日本を発見することは非常に困難です。会うべき人々を紹介してくれる人がいることはとても重要です。
山本さんの作品には本当に感心しています。彼は頻繁にトスカーナを訪れて、何年にも渡り、私の作品を数多く撮影してくれました。
彼の写真はある意味で私にとってとても日本的であり、私の作品の異なるビジョンを与えてくれました。彼の写真は親しく近い距離で私の作品の本質を伝えてくれるため、とても気に入っています。
現在、2021年秋に彼と一緒に東京で展示会を開催する計画を立てています。これはコロナ後の初めての長旅となります。このプロジェクトを実現できることを願っています。
≫ クリスチャンヌ・ペロションの作品一覧はこちら
https://doinel.net/product/brand/christiane-perrochon
≫ 2015年のインタビューはこちら
https://doinel.net/journal/10857
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Christiane Perrochon(クリスチャンヌ・ペロション)
スイス、ジュネーブ出身の陶芸家。Ecole des Arts Decoratifsを卒業。ジュネーブのスタジオに勤めながら学校で陶芸を教え、1971年に独立。1979年にトスカーナに移り住みアトリエを構え作品づくりをしています。
https://www.instagram.com/christiane_perrochon/
Photo:Yutaka Yamamoto(1枚目をのぞく)
Writing & Edit:Yuki Akase