1993年、デザインとパターンメイキングを学ぶためパリに留学中、後にエルメスのコレクションデザ インを手掛ける服飾ブランド「Mariot Chanet」のコースを選択していた時、アシスタントモデリストとして働く機会を得ました。勤務初日、仕事道具が整然と並べられた明るいアトリエで、フランス人モデリストMaryse Fauxに出会いました。彼女も英語を話せたので言葉の不安が一気に消え、これから始まる新しい経験に胸を膨らませたことを覚えています。
デザイナーのスケッチは彼らが頭の中に浮かべた洋服のヴィジョンを描き出すもので、 時に曖昧なものですが、それをいかに美しく、機能的で、かつ立体的な型にするかという点で、モデリストには緻密な計算と創造性が必要不可欠です。 Maryseの仕事は細かい作業一つにも無駄がなく美しく、ここで学んだすべての経験は私にとって財産となりました。後に私が自身の初のコレクションを制作する際には、アトリエとして素敵なアパー トを貸してくれたり、縫製をしてくれる優秀な友人を紹介してくれたりと、彼女はいつも貴重な手助けをしてくれました。Maryseはとても自立していて冒険心と好奇心に満ち溢れ、活躍はフランス国内に留まりません。教鞭をとるためにパキスタンやカイロ、上海の学校へ赴き、赴任先でもプライベートでカリグラフィーや中国画や陶芸を学びます。彼女自身も海外生活の中で湧き上がる創作意 欲に驚きを感じているそうです。
今はフランス中部に拠点を戻していますが、そこでも自身で改装した家に住み、今度は油絵を学んでいます。出会っ た時からずっとエネルギッシュにクリエイティブ であり続けることをやめない前向きな彼女は、会う度にたくさんの刺激を与えてくれます。
Written by:Anu Leinonen ( ファッション / テキスタイルデザイナー)
フィンランドでファッションデザインを学び、ヘルシンキでデザイナーとしてのキャリアを積む。93年パリに留学、その後自身のブランドを設立し、天然素材のファッションを提案。06年フィンランドに戻り、ラプアン カンクリで USVA と KASTE シリーズを開発。パリの雑踏とフィンランドの森、双方のコントラストを楽しんでいる。
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