甘くて酸味もしっかりあって、瑞々しく爽やか。 ライチ、マンゴー、マンゴスチン、マスカットのような不思議な味。先日訪ねたベトナムで、もぎたての新鮮なカカオを食べさせてもらった。カカオといえばチョコレートだけれど、直接木を見て実 に触れて、味わうことは初めての体験だった。チョコレートが農作物であることをリアルに実感した。
5 年前にチョコレートの本の制作に関わり、それ以来チョコレートに魅せられてしまった。もともと食べるのは好きだったけれど、歴史的背景や製造の技術、自然、化学など、知れば知るほど謎が増えるばかりで、深みにはまった。 収穫されたカカオは、果肉と種を取り出して発酵させる。微生物の力によって複雑なアロマが引き出される。「チョコレートの美味しさにおいてなによりも重要なのは発酵!」とベトナムのチョコレート会社 MAROUのオーナーは力説する 。
そう 、チョコレートは発酵食品なのだ。農家の納屋の奥には、カカオを発酵させた木箱があり、手で触れるとぽかぽかと暖かい。微生物が活動すると自然に温度 が上がる。辺りには醸造特有のつーんと甘酸っぱ い匂いが漂っていた。なんとも神秘的である。
カカオはマヤ、アステカの時代から食された永い歴史 があり、自然の力、微生物の働きに人間の飽くなき 探求による技術が加わって、麗しき食べ物に変貌した。チョコレートの一番もとの姿である生のカカオに出会えたことは、またとない貴重な経験だったけれど、これをきっかけにさらに謎は増えてしまった。
Written by:江沢 香織(ライター、コーディネーター)
インテリア、雑貨、フード、ライフスタイル、旅などのジャンルを中心に、その時の興味あるテーマを雑誌・書籍などで執筆したり、イベントの企画などを行う。最近手掛けたのは「みんなのチョコレートブック」(KADOKAWA)の編集・執筆。他、主な著作「山陰旅行 クラフト + 食めぐり」(マイナビ )、「ショコラの時間」(共著)( 青山出版社 )
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