訪れた場所で印象に残った所って多いようで、そうでもないのかも知れない。人の記憶は曖昧で気がつけば自分の都合の良いように解釈しているような気もする。旅の思い出もそんなとこだろうか ?
以前、イギリスの最南西端に位置する、ずっと憧れていたst ivesという小さな街を訪れたことがあ る。そこは 1920年代にイギリスの芸術家たちが移り住んだアーティストコロニーで、フランスだと南仏のような場所なんだろう。日本でも馴染み深い、 バーナード・リーチと濱田庄司が一緒に登り釜を築きリーチ・ポタリーを開いた興味深い場所でもある。
もちろんリーチ・ポタリーを訪問できた事も1 つの収穫だけど、個人的に、ブランクーシやイサム・ ノグチと並び、20 世紀の英国を代表する彫刻家で あるバーバラ・ヘップワースが生前創作と住居を共にしたアトリエである、Sculputure Gardenを訪問できたから嬉しさもひとしおだった。
今まで見た事がない様々な植物と共存するように抽象的でどこかぬくもりがある有機的な彫刻群の素晴らしい庭や、生前使われていたままのアトリエの風景の残像からは、彼女の息吹が感じられ、記憶の断片として残っている。ロンドンから寝台列車にゆられること8時間、長旅もなんのその。朝眠たい目をこすりながら車窓から見た、牧歌的な景色に心地よい興奮を感じた。
わざわざ訪れた場所だからこそ、 st ives への旅は僕の記憶と体にしっかりと刻まれ忘れることが出来ない体験となった。
Written by:泉 哲雄(trouville/ 選曲家、コラムニスト)
インテリアの仕事を生業に、プライベートでは、様々なイベントでの選曲のお手伝いや、デザインや アートなどその時の興味の対象を中心に趣味性を生かしたコラムの執筆なども行う。奥様である美貴子 さんは福岡で PATINA (www.patina-fk.com) というギャラリーショップを営む。
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